ふみきりのぼうけん

電子工作、プログラミング、旅行、書籍紹介などの雑多なブログです。

ハードウェアに関わるエンジニアに必要な本 「ハードウェアハッカー~あたらしいモノをつくる破壊と創造の冒険」を読んで

ツイッターでおもしろそうな本が流れてきたので、Kindleで買って読んでみました。

ハードウェアハッカー ~新しいモノをつくる破壊と創造の冒険

ハードウェアハッカー ~新しいモノをつくる破壊と創造の冒険

この記事はこの本の感想となります。

本の概要

この本の中で「ハードウェア」とはコンピュータ全般というか、そういったテクノロジーを扱う製品を意味しています。
ハードウェアのアイデアを出し、試作機を作り、テストを考え、実際に量産し、テストを実行して歩留まりを上げる方法など、開発から生産、保守までについていくつかの身近な例を挙げ、解説した本になります。
その例としては、USBメモリスマートフォン、ジッパー、その他製品など、身近な製品が中国でこんなふうに作られているのか!とびっくりする内容がてんこ盛りです。

私は現在学生なため、社会人のエンジニアが経験している大変などがまだまだわからなく、この本に書いてある量産のための工場との関わりやコストについて読んですごく新鮮に感じました。
そんなわけで、この本に関して各パートごとに最大3つずつ、特に印象的だったこと、新しく学んだことをこの記事としてまとめていきたいと思います。
ちなみに、まだ全部読みきれてないため、読みつつまとめていきます。

 

バニーから日本の読者へ

① 中国には日本と近い技術的跳躍の予兆がある

1980年代、アメリカのポピュリストたちは
「日本人はアメリカの技術を盗むことはできてもイノベーションを起こすことはできない」
と考えていた。これと同じことが今の中国で言われている。
「中国は技術を盗むことはできてもイノベーションを起こすことはできない」
しかし、これは日本の技術的な成長の過去を考えると高度で技術的な跳躍の予兆である。

感想

これは読んでそのままですね。生まれてから日本の高度成長を経験していない私としては当時のことはわかりませんが、正直数年前まで中国について上記のように思っていました。(もちろん今は違います)


 

Part 1 量産という冒険

① オートメーション化されるのは単価の高い製品のみである。

中国でもオートメーション化が進んでいるが、単価の低いおもちゃや服の洗濯表示は手作業。ワイヤーボンディング前の部品の固定も手作業。まだまだ人間の方が安い。そしてそれを支えているのは職人たちの技である。また、自動化されていてもその技はシミュレーションで得られないものもあり、現地の工場が発生しうる問題をあらかじめ予測して対応してくれている。

②量産のコストとエンドユーザーの感覚には大きなズレがある。

製品が鏡面仕上げのピカピカのほうがユーザーは高級だと感じる。その実現のため、仕上げ・フィルム貼り等の大きなコストが生じ、その"高級さ"を助長する。しかし、製品を手に取ったユーザーがする第一の行動は綺麗な表面に油の付いた指紋をつけることである。おそらく鏡面仕上げでないほうが長期的な顧客体験は上だが、製品の写真を取るときは鏡面仕上げのほうが確かにきれいに見える。

③ コンピュータの作り手が、インターネットを知らない

コストの面では、たとえアメリカの工賃が半額になり中国の工賃が二倍になってもまだ中国にアドバンテージがある。しかし、悪意はないが、我々が発注するもののイメージや価値が必ずしも工場に伝わっているわけではない。そのため、すべての項目に明確に許容誤差を明記すること、だれでも簡単にテストができるように治具をつくることが必要である。

感想

例として身近なUSBメモリのテスト方法やジッパーの製造についての話がおもしろかったです。人間の手先の器用さと歪みが垣間見れたような気がします…。

 

Part 2 3つのまったく違った工場の中身

① 西洋の権利保護の考えと異なり、中国の山寨ではコピーや複数の製品を組み合わせてビジネスとして回す。

中国の山寨オープンソースとは、"設計図が入手できればだれでもコピー・改良することができる"ということ。利益は設計図が出回ることでその向上の追加注文や機能追加の依頼で確保する。そして、そのシステムは西洋の権利保護のシステムとは異なりその欠点もあるが、技術の進歩のスピードに合うのは山寨の考え方なのではないか。

② "オープン"な考え方により、自分たちが変更を加えたい場所のみに注目し、開発を効率よく進めることができる。

中国では知的財産に関して、優れたアイデアイノベーションを構築するには必然的に他人の肩の上に立つことが必要で、コピーする/されるというお互いに持ちつ持たれつというネットワークを築く。草の根レベルでは知的財産に寛容な方がイノベーションを促進できるのではないか。

③ このルールに”ゆるい”システムは悪いところもある。それは品質が保証されにくいという点である。

筆者は中国で流通するチップの不良や偽造は多い。例えば、SDカードは表面を簡単に書き換えることができるし、チップの内部は機能は近いが性能が不安定な粗悪品かもしれない。さらに、部品調達のときに偽造とわからない程度に上手に紛れ込ませて利益を確保するサプライヤーもいる。中国の偽造産業がいかに高度化を物語っている。

感想

中国でイノベーションが~のような記事でよく言われることの内情がわかった気がします。もちろん、この本の中身だけがすべてではないとは思いますが、西洋的とは根本的なシステムや考え方が異なるということが強く感じられます。


Part 3 オープンソースハードウェアと僕

① ハードウェアスタートアップでは小売を通す場合を考慮してできるだけ高い値段で売る。

低すぎる値付けは小売業者を使うための利ざやがなくなってしまう、自分でセールができなくなることが起こる。出荷後に値上げをするのはほぼ不可能で、例えばクリスマスに売る、99ドルや149ドルの値付けにするといった工夫を凝らすほうが売上は上がる。

② ムーアの法則に則った成長が鈍ることは小規模イノベーターにとって好機である。

従来的なムーアの法則に則った成長であれば、小規模イノベーターが毎年75%性能を改善しても、ムーアの法則により二年間でその優位性は失われる。しかし、ムーアの法則が鈍り、成長が頭打ちに近い状態では性能の改善で差は出にくくなるため、イノベーターによって最適化された手段の優位性は従来より大きくなる。また、長期的なコンピュータの使用が予測されるため、互換性を持つハードウェアの優位性が強化される。

③ 多くの可動部分のある金型が完璧になるには複数回の改良が必要である。

特にラップトップの底部のような複雑な金型は射出形成サンプル(それぞれT0、T1、T2などと呼ばれるらしい)を複数回作らなければならない。おおよそはじめての加工では、斑点や厚みの違い、パーツ同士がはまりにくいという問題が現れる。

感想

この章は一般的な話というよりも筆者のハードウェアスタートアップ事業の紹介でした。読んでいくと非常に泥臭いというか、製品を作る上で教科書にはない知識やトラブルに見舞われることが身にしみて感じます。自分も電子工作をしているとメインの機能よりも配線をきれいにするとかスイッチやボタンをどこに配置するとかどうしたらUIが使いやすくなるかといったものにとても時間がかかった過去があったので、読んでいて「ああ、魔法(なんとなく誰かがうまくいかせてくれている)はないんだなあ」という気持ちになりました。


Part 4 ハッカーという視点

① 誰しもコンピュータを持つ今だからこそ、自由な発想の技術者がユニバーサルアクセスの環境で活気ある文化を保てるような環境が重要である

誰しも似たようなハードウェア、ソフトウェアを持つコンピュータを持ち、身近なインフラにもコンピュータが使われている。そして画一的なシステムは特定の脆弱性を突かれると脆い。技術そのものは倫理中立だが、情報をオープンにすることでその脆弱性を悪用する人間もいる。しかし、これらの脅威に対し、防衛線となるのは活気のある自由な発想を持つ技術者である。リバースエンジニアリングのような熟練技術者の考えを学ぶことができる自由な環境を努力によって保つ必要がある。

② 法律も目的を実現するために取り組むべき制約の一つでしかない

法律はあらゆる手段を尽くしてハッカーの自由を規制しようとする。しかし、法律や規格を理解し回避する手法を考えることでこの問題はハックすることができる。 

感想

PICの中身を見るといったリバースエンジニアリングについてこんなこともできるのか!!!と驚きました。私の父はトランジスタラジオなどを自作していたらしいですが、私が生まれたときはすでにWindows98が家にあり、コンピュータとは基板の上に不可侵の黒いチップが並べられているものだと思っていました。SDカードのコントローラのリバースエンジニアリングの経緯を読んで、これは確かに知識があれば可能であると考えられるようになりました。コンピュータアーキテクチャについてもう少し知りたくなりましたね。

全体の感想

初めてこんな隅々まで読んでまとめ記事を書きました。ちょっと大変だったけど、きちんと読み込む価値のある本だと感じます。特に私のような駆け出しエンジニアには、この本を読んだことでこれからのエンジニア人生は変わると思います。

ちょうど私は来年で社会人になりますが、自分がハードウェアエンジニアになるかソフトウェアエンジニアになるか、はたまたもはやどちらだけでは絶対に生きていけないといったいろいろなことを聞き、正直自分の将来に関して不安までいきませんが、どーしたもんかーくらいには思っています。こういった本はそのきれいな話だけでなく、その難しさについても言及し、例を示してくれているので、すごくおもしろいな~と思いました。

以上です。